本の紹介 其の七十八「ブルガリア語」と「マケドニア語」
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No.107『ブルガリア語基礎1500語』
編者:松永緑彌 出版社:大学書林
価格:2,520円(本体2,400円+税)
発行年月:1987年6月10日
ISBN:4475011035
購入場所:東京・神保町/三省堂書店神田本店
購入時期:不明
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No.108『マケドニア語基礎1500語』
編者:中島由美 出版社:大学書林
価格:2,310円(本体2,200円+税)
発行年月:1983年1月20日
ISBN:4475010845
購入場所:東京・神保町/三省堂書店神田本店
購入時期:不明
『ブルガリア語基礎1500語』は総ページ数120ページ。冒頭に「ブルガリア語の文字」とごく簡単な「文法メモ」が掲載されています。1ページから80ページまでが「基礎単語編」、81ページから84ページは「付録」として数詞、地名、国名、民族名を掲載しています。85ページから120ページまでが「訳語索引」となっており、日本語からブルガリア語が引けるようになっています。
『マケドニア語基礎1500語』は総ページ数143ページ。冒頭に「マケドニア語のアルファベット」が掲載され、1ページから58ページが「マケドニア語基礎語彙」、59ページから88ページが「マケドニア語小文法」で、この部分は日本語で読める貴重なマケドニア語文法の概説となっています。89ページから143ページは「日本語からの逆引き」となっており、日本語からマケドニア語が引けるようになっています。
ブルガリア語については、以前
本の紹介 其の四十六『《エクスプレス》ブルガリア語』の時に触れましたので、今回はマケドニア語についてご紹介します。
まず、マケドニア語を知る前に、マケドニアという名称について簡単に触れておきます。
現在、マケドニアと呼ばれている地域はマケドニア共和国、ギリシア、ブルガリアの3つの国にまたがっています。このマケドニアは古くにアレクサンドロス大王を輩出した場所として有名ですが、元来ギリシア人が多く住んでいる土地でした。のちに、バルカン半島を段階的に南下してきたスラブ人がこの地に居住するようになり、7世紀の初めにはスラブ人が多数を占めるようになっていたと言われています。この地域に定住したスラブ人たちは、もともとこの地域がマケドニアと呼ばれていたため、自らを「マケドニア人」と自称するようになりました。
この地域は歴史的に東ローマ帝国による支配をはじめ、セルビア、ブルガリア、オスマン・トルコと、時の支配者がめまぐるしく変わりましたが、1910年代に勃発したバルカン戦争によってギリシア、ブルガリア、セルビアの間でマケドニアの割譲が行われた結果、現在の国境線が引かれました。
このような歴史的背景から、特にギリシアはスラブ人国家のマケドニア共和国に対して、「スラブ人がマケドニアという名称を使うのはけしからん。国名を変更せよ」とたびたび迫っており、しばしば国際問題になっています。
マケドニア語は印欧語族、スラブ語派、南スラブ語群に属し、ブルガリア語とともにその中の東部グループを形成しています。
マケドニア語が使用される地域は、マケドニア共和国を中心にしており、周辺のアルバニア、ギリシア、セルビア、モンテネグロなどにも一部話者が存在します。さらに北米やオーストラリアなどへのマケドニア系移民を含めれば、250万から300万人程度の話者がいるものと思われます。
マケドニア語で使用される文字は、セルビア語やブルガリア語などと同じキリル文字ですが、マケドニア語独特の音を表すために一部改良が加えられています。このため、ほぼ1字1音の原則が守られており、これは旧ユーゴスラビア構成国の時代に盟友だったセルビアの影響を受け、セルビア語の父と称えられたヴーク・カラジッチによるカラジッチ方式を取り入れたためです。1字1音の原則が破れるのは、有声子音が語末に立ったときに無声音化する場合のみです。
マケドニア語の文字および対応する音は以下のとおりです。
а[ a ] , б[ b ] , в[ v ] , г[ g ] , д[ d ] , ѓ[ ɟ ] , е[ e ] , ж[ ʒ ] , з[ z ] , ѕ [ dz ] , и[ i ] , ј [ j ] , к[ k ] , л[ l ] , љ [ ʎ ] , м[ m ] , н[ n ] , њ [ ɲ ] , о[ o ] , п[ p ] , р [ r ] , с[ s ] , т[ t ] , ќ [ c ] , у[ u ] , ф[ f ] , х[ x ] , ц[ ʦ ] , ч[ ʧ ] , џ [ ʤ ] , ш[ ʃ ]
全31文字のうち、マケドニア語の表記のみに用いられるのは赤く塗られた3文字で、青く塗られた4文字はセルビア語と共通している文字です。
アクセントは、強弱アクセントで、語末から3音節目に置かれます。つまり、単音節語や2音節の語では語頭に置かれることになります。アクセントのある音節は、強く、やや高めに長く発音されます。
マケドニア語はブルガリア語とともに、スラブ語派の中にあっては特異な位置を占めています。それは、類型論上ですが、曲用においては屈折語的タイプから孤立語的タイプへの移行が見られます。格変化をほとんど失ってしまい、その僅かな痕跡は一部の人名の生格形や呼格形に見られますが、口語ではほとんど使用されません。この辺りの変遷は英語が辿ってきたものとよく似ています。
また、マケドニア語の最大の特徴とも言えるものに、人称代名詞を二重に重ねて用いる代名詞二重使用と呼ばれる面白い形式があります。これは、人称代名詞の直接目的形と間接目的形の区別に見られ、前者は対格形、後者は与格形に由来するものです。各目的形には長形と短形と呼ばれる区別があり、それぞれに用法が異なります。もともとは屈折語的タイプだった英語とマケドニア語を比べてみると、英語が統語論的に語順を重視するのに対して、マケドニア語では英語ほど語順の規則が厳密ではありません。そこで、各目的形の短形が直接目的、間接目的の区別を明確化することにより、意味が曖昧にならないように工夫されているものと思われます。
これは、英語にも言えることですが、屈折語の特徴である格変化を失ったことにより、孤立語的な性格に姿を変えたマケドニア語では前置詞の果たす役割が大きくなっています。
もうひとつは、スラブ語には本来なかった定冠詞を、後置冠詞という形で保持していることもマケドニア語の大きな特徴です。この後置冠詞は、語派を越えてバルカン半島に分布する言語、アルバニア語、ルーマニア語、ブルガリア語、現代ギリシア語などにも見られ、様々な言語がモザイク状に分布する地域においては、互いに同じような特徴を持つ現象として注目されてきました。バルカン諸言語に見られるこうした特徴を指してバルカニズム(Bailanism)と呼ぶことがあります。
国名の問題ではギリシアとの間に禍根を残しているマケドニアですが、言語の面ではブルガリアとの間で問題を残しています。マケドニア語とブルガリア語は、互いに隣接する地域において影響し合い、また同じスラブ語派の言語として、あるいはバルカン言語連合の言語として、多くの特徴を共有しています。そのため、ブルガリア側ではマケドニア語を独立した一言語として見る立場を取らず、これをブルガリア語の方言であると主張して、マケドニア側の反発を買っています。
僕が『マケドニア語基礎1500語』と『ブルガリア語基礎1500語』を入手したのも、上記のような理由から興味を覚えたためで、両者は一体どの程度似ているのだろうということを確かめることを主要目的として使っています。比べてみると確かに方言同士の関係と言ってしまってもいいのではないかと思うくらいよく似ていますが、言語学の世界ではこれをそれぞれ独立した言語と見做す考えが一般的です。一言語と方言の間の線引きがいかに難しいかを感じさせる、マケドニア語とブルガリア語なのでした。
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